Googleマップ(Googleビジネスプロフィール)に悪評を書かれたとき、多くの事業者が最初に考えるのは「誰が書いたのか」という点です。
結論から整理すると、一般的な方法で投稿者を特定することはできません。
Google上に表示される情報だけでは、氏名・住所・連絡先などの個人情報を知ることは不可能です。
ただし例外として、名誉毀損や業務妨害などの権利侵害が明確な場合には、裁判所を通じた発信者情報開示請求によって特定が認められるケースがあります。
もっとも、そこには時間・費用・回収リスクといった現実的な問題も伴います。
本記事では、
- Google口コミの投稿者は本当に特定できるのか
- 判例から見る特定の現実
- 特定よりも優先すべき対処法
を整理し、判断材料に基づいた対応策を提示します。
Google口コミは誰が書いたかわかるのか?
原則、一般ユーザーには特定できない
Googleマップの口コミは、Googleアカウントを使って投稿されます。
表示されるのは、主に以下の情報です。
- アカウント名(ニックネーム)
- プロフィール画像
- ローカルガイドレベル
- 投稿履歴※公開範囲の制限で非表示設定が可能
しかし、以下の情報は公開されません。
- 本名
- 住所
- 電話番号
- 登録メールアドレス
- IPアドレス
つまり、店舗側が口コミページを閲覧するだけでは、投稿者の実在性や身元を確認することはできません。
Googleは個人情報保護の観点から、アカウント情報を第三者に開示しない設計になっています。
そのため、「IPアドレスを調べる」「アカウントから個人を追跡する」といったことは、通常の操作では不可能です。
また、Googleマップに店舗情報が掲載されている場合、第三者が勝手に口コミを投稿すること自体は仕様上防ぐことができません。
掲載=投稿可能という構造であり、事業者の許可は不要です。
したがって、通常の方法で投稿者を突き止めることはできないというのが原則となります。
捨てアカウントは見分けられるのか?
悪質な口コミでは、いわゆる「捨て垢(捨てアカウント)」が使われているのではないかと疑われることがあります。
実際、以下のような特徴が見られるケースはあります。
- 投稿数が1件のみ
- プロフィール画像が未設定
- ローカルガイドレベルが1
ただし、これらはあくまで傾向に過ぎません。
投稿数が少ない=架空アカウントとは断定できず、実在の顧客が初めて口コミを書いただけの可能性もあります。
また、元従業員による嫌がらせが疑われる場合でも、アカウント名や文体だけで個人を特定することはできません。
推測で相手を断定すると、かえってトラブルが拡大するリスクがあります。
そのため、「捨て垢かどうかを見分けて特定する」という発想は現実的ではありません。
判断材料にはなっても、法的な裏付けにはならないためです。
Google口コミの投稿者を特定できるケース
前述で整理したとおり、通常の閲覧や操作では投稿者を特定することはできません。
しかし、名誉毀損や業務妨害などの権利侵害が明確な場合には、例外的に投稿者情報の開示が認められることがあります。
ここで解説するのが「発信者情報開示請求」という法的手続です。
発信者情報開示請求とは何か
発信者情報開示請求とは、インターネット上で権利侵害があった場合に、投稿者の氏名や住所などの情報を開示するよう裁判所を通じて求める手続です。
現在は、旧「プロバイダ責任制限法」が改正され、情報流通プラットフォーム対処法の枠組みのもとで運用されています。
Google口コミの場合、一般的な流れは次のようになります。
- Googleに対し、IPアドレスなどのログ情報の開示を求める
- 開示された接続情報をもとに、接続プロバイダへ契約者情報の開示を求める
- 投稿者の氏名・住所が判明する
この手続は通常、仮処分や訴訟などの裁判手続を経て進みます。
弁護士に依頼するのが一般的で、数か月から1年以上かかることもあります。
重要なのは、請求すれば必ず開示されるわけではないという点です。
裁判所が一定の要件を満たしていると判断した場合にのみ、開示が認められます。
参考:総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)
開示が認められるための法的要件
裁判所が開示を認めるためには、主に次のような要件が検討されます。
①権利侵害が明らかであること
投稿内容が、
- 事実と異なる具体的記載
- 社会的評価を低下させる内容
- 業務妨害に該当し得る表現
などに該当し、違法性が認められる必要があります。
単なる感想や評価(例:「対応が悪いと感じた」など)については、違法とは判断されにくい傾向があります。
②違法性阻却事由がないこと
違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆう)とは、形式的には違法行為にあたるが、例外的に違法とは評価されないとする事情のことです。
仮に名誉を低下させる内容であっても、
- 公共性がある
- 公益目的である
- 真実または真実相当性がある
と判断される場合には、違法性が否定される可能性があります。
医療機関や公共性の高いサービスの場合、ここが争点になることが少なくありません。
③特定の必要性があること
投稿者を特定する合理的な理由が必要です。
たとえば、
- 損害賠償請求を行う予定がある
- 刑事告訴を検討している
- 継続的な権利侵害がある
など、具体的な目的が求められます。
単に「誰が書いたか知りたい」という感情的動機だけでは、開示の必要性が十分とは判断されない可能性があります。
実務上のハードル
発信者情報開示請求には、次のような現実的なハードルがあります。
- 弁護士費用・調査費用がかかる
- 開示までに時間を要する
- ログ保存期間の制限がある
- 投稿が削除されても手続は継続する必要がある
また、IPアドレスの保存期間には限りがあり、対応が遅れると特定自体が不可能になるケースもあります。
さらに、仮に特定できたとしても、
- 賠償額が想定より低い
- 費用を回収できない
- 相手に支払能力がない
といった問題も発生し得ます。
この点については、次項で具体的な判例をもとに整理します。
実際の裁判例を見ることで、投稿者特定の現実的な意味と限界がより明確になります。
判例から見るGoogle口コミ投稿者特定の現実
発信者情報開示請求によって投稿者が特定された事例は、実際に複数存在します。
ただし、特定できた場合でも、費用や回収額の評価は事案ごとに大きく異なります。
ここでは、日本国内で報道された代表的な事例を整理します。
大阪府内の歯科医師親子の事例
大阪府内の歯科医院をめぐる事案で、Googleマップの口コミ投稿者が特定され、名誉毀損が認められました。
問題となったのは、
- 「知識は20年以上前のものだから予約が取りやすい」
- 医師の態度を揶揄する記載
といった投稿内容でした。
医院側は弁護士を通じて発信者情報開示請求を行い、投稿者を特定。
投稿者は実際に受診歴のある人物でしたが、開示の動きを受けて投稿を削除し、謝罪しています。
地裁の判断
大阪地裁は、「知識は20年以上前」との記載を虚偽の事実と認定し、名誉毀損の成立を認めました。
しかし、裁判所は次の点を考慮しました。
- 口コミは全面的に信用される性質のものではない
- 実際の営業への悪影響は限定的
その結果、
- 慰謝料:親子合計20万円
- 調査費用:55万円のうち4万円のみ認定
という判断になりました。
控訴審の判断
大阪高裁は、
- 慰謝料を40万円に増額
- 調査費用の半額(27万5千円)を認定
しましたが、最終的な賠償総額は約74万2,500円にとどまりました。
実際に支出した費用を十分に回収できたとは言い難い結果です。
この事例は、投稿者特定には多大な労力と費用がかかる一方、賠償額がそれに見合わない可能性があることを示しています。
事例参考:グーグルマップで?の口コミ、調査費多額で勝訴しても大赤字…ネット中傷裁判の構造的問題 – 産経ニュース
医療法人に300万円超の賠償命令が出た事例
大阪市の整形外科クリニックに対する口コミ投稿について、大阪地裁は約337万円の支払いを命じました。
問題となった投稿は、
- 「理学療法士でもない感じで身体をさすっているだけ」
- 「医師が大声でキレた」
といった内容でした。
裁判所は、これらの投稿が社会的評価を低下させたと認定し、約286万円の損害を認めています。
一方で、発信者情報開示請求に要した33万円のうち、因果関係が認められたのは11万円のみでした。
この事例では高額な賠償が認められましたが、調査費用の扱いは限定的でした。
特定できた場合でも、費用が全額回収されるとは限らないことが分かります。
事例参考:「医師が大声でキレた」グーグルに嘘の口コミで名誉毀損 投稿者に300万円超の賠償命令 – 産経ニュース
眼科医院の開示・削除命令事例
兵庫県尼崎市の眼科医院をめぐる事案では、投稿者に対し削除と200万円の支払いが命じられました。
問題となった投稿は、
- 「勝手に右目にレンズを入れられた」
- 「勝手に一重まぶたにされた」
といった内容でした。
裁判所は、閲覧者に「勝手な医療行為をする医院」という印象を与え、社会的評価を低下させたと判断しています。
この事案では、
- 医療法人がGoogleに対して発信者情報開示を求めて提訴
- 高裁が開示を命じる判決を出し確定
- 投稿者の氏名・住所が開示
という流れを経ています。
匿名投稿であっても、裁判所の判断によって特定が可能であることを示す事例です。
事例参考:グーグルマップに眼科医院の悪評を投稿 名誉毀損を認め賠償命じる:朝日新聞
判例から見える構造的な問題
これらの判例から整理できる点は次のとおりです。
- 明確な虚偽や社会的評価低下が認められれば、特定は可能
- しかし、開示までに時間と費用がかかる
- 調査費用の評価は裁判所によって分かれる
- 実際の回収額が支出額を下回るケースがある
つまり、法的手段は有効な選択肢の一つではありますが、必ずしも経済的合理性が高いとは限りません。
投稿者を特定すること自体が目的であれば意味はありますが、経営的損失の回復を主目的とする場合には、慎重な判断が必要になります。
投稿者を特定するメリットとリスク
発信者情報開示請求によって投稿者を特定できる可能性はあります。
しかし、特定はあくまで手段であり、目的ではありません。
ここでは、特定に進む場合のメリットとリスクを整理します。
投稿者を特定するメリット
再発防止と抑止効果
投稿者が特定され、法的責任が認められれば、同様の投稿が繰り返される可能性は低くなります。
特に、元従業員や継続的に嫌がらせを行っている人物が疑われる場合には、抑止力として機能することがあります。
また、組織内外に対しても、「不当な中傷には対応する」という姿勢を示すことになります。
名誉回復の効果
裁判で名誉毀損が認められれば、法的に「虚偽である」と判断されたことになります。
これは、事業者にとって一定の社会的回復につながります。
削除だけでなく、判決という形で違法性が認定される点は、特定手続の大きな意味の一つです。
悪質なケースへの明確な対応
以下のようなケースでは、特定を検討する合理性が高まります。
- 明確な虚偽事実の記載
- 医療事故や違法行為を示唆する投稿
- 継続的な複数アカウントからの攻撃
- 業務に直接的な損害が生じている場合
単なる低評価ではなく、事実関係が争点となる場合は、法的判断が必要になることがあります。
投稿者特定のリスク・デメリット
費用と回収の問題
発信者情報開示請求には、弁護士費用や裁判費用が発生します。
数十万円から、事案によってはそれ以上の負担になることもあります。
前項で紹介した判例のとおり、調査費用や弁護士費用が全額回収できるとは限りません。
賠償額が支出額を下回る可能性も十分にあります。
長期化する可能性
開示請求から投稿者特定、さらに損害賠償請求まで進む場合、半年から1年以上かかることもあります。
その間、精神的負担が続くことになります。
相手に支払能力がない場合
仮に判決で損害賠償が認められても、相手に十分な支払能力がなければ回収は困難です。
個人投稿者の場合、強制執行まで進んでも回収できないケースもあります。
炎上や二次的トラブルの可能性
訴訟が公になることで、SNS等で話題になる可能性もあります。
適切な対応を取っていたとしても、情報の切り取りによって誤解が生じることは否定できません。
感情と経営判断を分ける必要性
口コミによる中傷は精神的な負担が大きく、「相手を知りたい」「責任を取らせたい」と感じるのは自然なことです。
しかし、特定には費用・時間・回収可能性という現実的な制約があります。
重要なのは、
- 特定が本当に必要か
- 削除対応で足りるのか
- 運用改善で影響を抑えられるのか
を整理した上で判断することです。
特定よりも現実的な対処法
投稿者を特定する法的手段は存在しますが、すべてのケースで最適とは限りません。
実務上は、まず「被害を止める」「評価への影響を抑える」という観点から対応を検討しましょう。
ここでは、特定に進む前に整理すべき現実的な対処法を解説します。
Googleポリシー違反での削除申請
Googleマップの口コミは、一定のポリシーに違反している場合、削除対象になります。
代表的な違反類型は次のとおりです。
- 虚偽情報の投稿
- 実体験に基づかない内容
- なりすまし
- 嫌がらせや差別的表現
- 利害関係者による投稿(元従業員を含む)
元従業員による嫌がらせが疑われる場合でも、利害関係者による不当な評価であることが客観的に示せれば、削除の可能性があります。
削除申請では、
- 投稿のどの部分がポリシー違反に当たるのか
- なぜ事実と異なるのか
- どの条項に違反しているのか
を整理して伝えることが重要です。
感情的な主張よりも、ポリシー文言との対応関係を示す方が有効です。
Googleポリシーは「プラットフォーム運営上の基準」
非表示・評価回復の運用対策
削除が認められない場合でも、影響を抑える方法はあります。
正当な口コミを増やす
実際の利用者からの適正な口コミが増えれば、単発の悪評の影響は相対的に小さくなります。
不自然な依頼や対価提供は規約違反ですが、来店後の自然なレビュー依頼は問題ありません。
Googleビジネスプロフィールの口コミを増やす方法を解説
適切な返信対応
口コミへの返信は、投稿者だけでなく閲覧者に向けたメッセージです。
- 冷静で事実に基づく説明
- 個人情報に触れない配慮
- 攻撃的にならない姿勢
を保つことで、閲覧者の印象は大きく変わります。
投稿者を特定できなくても、第三者からの評価を変えることは可能です。
Googleの悪い口コミは削除する前に返信を検討しましょう
法的対応が適しているケース
一方で、次のようなケースでは、特定や法的対応を検討する合理性があります。
- 明確な虚偽事実が記載されている
- 医療事故や違法行為を示唆する内容
- 実際に売上減少などの損害が発生している
- 複数アカウントによる継続的攻撃
これらは、単なる低評価ではなく、事業継続に影響を与えるレベルの問題です。
削除申請もしくは専門家へ相談、それでも解決しない場合に法的手続という段階的対応が現実的です。
「相手を知る」よりも「被害を止める」視点
被害にあった方の多くは、怒りや不安の中で「誰が書いたのか」を知りたいと考えています。
しかし、経営上重要なのは、
- 被害を止めること
- 評価の下落を抑えること
- 信頼を回復すること
です。
投稿者特定は、そのための一つの選択肢にすぎません。
費用・時間・回収可能性を含めて比較したうえで、最も合理的な手段を選ぶことが重要になります。
まとめ
ここまで、Googleマップ上の虚偽口コミについて、削除請求や開示請求の流れ、特定の可否などを解説してきました。
最後に、「結局、投稿者を特定できるのか?」という点について、実務的な観点から整理します。
投稿者を特定できる可能性はある
結論から言えば、条件がそろえば投稿者の特定は可能です。
Googleマップの口コミは匿名表示であっても、運営主体であるGoogleは、内部的には投稿時のIPアドレスやアカウント情報を保有しています。
そのため、
- 投稿内容が名誉毀損・侮辱などの権利侵害に該当する
- 裁判所が発信者情報開示を認める
といった要件を満たせば、段階的に手続きを進めることで投稿者の特定に至る可能性があります。
ただし、「不快だから」「事実と違う気がする」という理由だけでは足りません。
法的に違法と評価できるかどうかが重要な分岐点になります。
ただし、すべてのケースで特定できるわけではない
実務上、次のような場合は特定が困難になることがあります。
- 権利侵害性が弱いケース
- 「抽象的な悪口」「主観的評価にとどまる投稿」「意見・論評の範囲内と判断される表現」このような場合、裁判所が違法とまでは認めず、開示請求が通らないことがあります。
- 証拠が不足しているケース
- 「投稿のスクリーンショットを保存していない」「投稿日時やURLが特定できない」「削除後に何も証拠が残っていない」特にGoogle口コミは削除や編集が可能なため、早期の証拠保全は重要です。
- 技術的・時間的制約
- IPアドレスの保存期間には限りがあります。時間が経過すると、プロバイダ側にログが残っていない可能性があります。
一人で抱え込まないで相談を
Googleマップ上の虚偽口コミは、放置するほど検索結果や店舗評価に影響を及ぼすおそれがあります。
一方で、感情的な返信や不適切な削除申請は、事態をさらに悪化させかねません。
「この口コミに、どう対応すべきか分からない」と感じたら、まずは弊社の相談窓口までご相談ください。















